ありふれた事件

 

先日、Yというキャバ嬢から唐突に連絡あった。
唐突と言うのは、このコとは半年以上前、たった1回、指名もせずにわずか15分ほど話しただけであったからだ。
感じの良いコで気が合ったので、その後何度か電話で話をしたことを覚えているが、店の場所が遠かったため、顔を出せずに入ると、あっというまに疎遠になってしまった。

しかし、なんでいまさら電話なんか来るんだ?

と疑問に思って、その理由を聞くと、
なんでも、夜の仕事を辞めて、昼の仕事で一本立ちしたというのだが、そのことで、ちょっと相談に乗って欲しいことがあるから逢って欲しい、 という。

単なるプ−の俺に、何のアドバイスが出来るのさ。
と、思ったりしたが、まあ断る理由もないので、

金ないからウチの駅まで来てくれれば、良いよ。

と言うと、それでもOKしてきたので、先日、俺の住む最寄り駅で待ち合わせることになった。

で、当日。
まあ、保険の勧誘かどっかの新興宗教にでもはまったかもな、という疑いも頭の片隅に入れながら、駅近くのドト−ルで待ち合わせた。
時間前に、Yから電話が鳴ると、すでに待ち合わせ場所にいることを告げて来た。意外と律儀なコだな、と感心して、俺もドト−ルに向かった。

しかしである。
ここでひとつ、大きな問題があった。
実は、すでに、俺はYの顔を覚えてなかったのだ。
あまりに時間が経ち過ぎてたし、大体あのときは酔っぱらっていた。(っていうか夜は毎日酔っ払っている)

しかし、まあ顔を見れば思い出すだろう。

と安易に考えて、ドト−ルに入った。
店を見渡す。
なぜだか知らないが、このときのドト−ルはやたら女性客が多くて、一見しても、Yを見分けることが出来なかった。

つーか、こりゃ、まじで、分からんぞい。

とキョロキョロと挙動不審でいると、店の中ほどにいた、一人の女性がこちらを見た。
思わず、のけぞりたくなるほどの美人である。
そして、その美人が俺を見ると、にこやかに笑いかけた。
俺は、驚いた。

久しぶりです〜

Yが優しい笑顔を俺に向けた。
正直、その日、店内にいた十数人の女性客のなかで断トツに一番可愛いコがYだった。
つーか、このコ、こんな美人だったっけ?
と嬉しい誤算に俺の顔の頬も緩ませながら、

なんか感じ変わったね。

と自分のいい加減な記憶を取り繕うと、

髪、切ったんだよ〜。

と嬉しそうに自分の髪を撫でてみせた。
しかし、後から多少思い出した記憶から鑑みると、大体キャバ嬢は普段よりお店で逢うほうが魅力的に見えると相場が決まっているが、このコはまるで逆だった気がする。
あまり着飾らない普段着とリラックスした表情が、より魅力を増すタイプらしい。

まあ、珍しいコもいるもんだな。

と180円のコーヒー一杯でしばらく話を聞くが、これが先の懸念を払拭するような、まともな人生相談だった。
あんまり偉そうなことを言える立場ではない俺は、浅い知識でうんじゃらこんじゃら、と話し込んだが、どうにもパソコンの画面を見せなければ説明できないことがあった。

ウチに来たら見せられるんだけど。。

と誘うでもなく、ボソッと口にすると、Yは、

じゃあ、今から連れてって見せてよ。

などと言う。
俺は、思わず逆に悩んでしまったが、まあいいか、ということで、いきなり、この人目を引く程の美人を家に招き入れることになった。

歩きながら、多少卑屈だが、

あのさ、Yちゃんほどのコなら、俺なんかに声掛けてこなくても、もっと頼りになる人いるんじゃないの?

と口にするが、

うーん、あんまり信用出来る人、いないから。

などと言ってきた。 俺は、

ふーん

と言ったが、じゃあ、なぜ一度しか逢ったことのない俺を信用するのかということは分からなかった。
が、まあ、理由はどうあれ女性を部屋にいれるのは久しぶりだな、と思って、良しとした。
しかし、家のドアの前に着くなり、俺は重要なことを思い出した。

それは、
昨夜、抜きじゃくった後のティッシュがむき出しでゴミ箱に捨ててあったことだ。
扉を開けるなり、ほのかに青春の甘酸っぱい匂いが漂ってくることもありえる。
俺は、あせって「部屋が汚れてるからちょっと待ってて」と告げて、涙雨のティッシュをビニール袋に入れ直し、ベランダに放り投げた。
それから、もうひとつ。
2日前からトイレにべったりウンコがついていたことを思い出し、それを洗い落とした。
便器にうんこがついていようがいまいが、抱かせてくれないことには変わらないだろうが、わざわざ気持ち悪がられることもなかろう、という判断だ。
我ながら、聡明な判断である。
さて、それから周囲を見回し、エロビデオがねえかあ、風俗誌の切れ端が落ちてないかあ、と見渡す限り平和な町並みになっていることを確認して、Yを招き入れた。

Yは入るなり部屋を見回したが、なんの感想も告げずに黙ってパソコンの前に座った。
その後、十分程パソコンをいじいじした後、その他なんの面白い話にも発展せずに、少しの雑談の後、別れることになった。

別れ際、こんな話をした。

飲み屋では働かないの?
もう、完全に足を洗ったよ。
せっかくの美貌を生かした仕事は、もうしないわけ?
うーんと、実は空いてる時間にちょっとだけど、モデルの仕事もしてるんだ。
へえ。どんなの?
この間は水着の仕事とかしたよ。
ほー。んじゃあ、こんど一緒に海にでも行くか。

最後に軽い気持ちでそんなことを誘うと、
Yは、ほんの一瞬、わずかに考えた後、

そうだねえ〜。機会があったらご一緒しましょう。

と、口にした。
俺は、そのYの希望を持たせるような穏やかな拒否の言葉と愛想笑いに、辞めたと口では言っても、すぐには消えない「お水の匂い」が残っているのを、見逃さなかった。

 

投資額          180円(コーヒー代)
回収額           10円(なんとなく、十円)

収支            −170円

 

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