熊谷より愛を込めて。

 

5月3日。世間はゴールデンウィークである。しかし、バイトで日々を無垢に過ごす俺には、祭日など人が混雑するだけの何ものでもない。

しかし家を出て駅周辺の人込みを、ベンチに座ってぼんやり見ていると、俺も心の垢を流すために旅に出たくなった。

たまたま夜は久々に、プチ引き蘢りのSと呑む約束をしていたので、どうせ暇だろうと思ってSに今から旅に出る旨を告げた。Sも暇を持て余してた(つーか常に暇)ので、一緒に行くことになった。

しかし、どこに行こう?

Sと二人で上野駅で集まったものの、そこで考えた。

はっきり言って二人とも殺人的に金がない。

宿泊は無理である。

路線図を見ながら検討すると、Sが、

「籠原とか、どう?」

と呟いた。

「籠原?どこそれ?」
「ほら、熊谷の隣。」
「つーか、なんで、籠原?」
「うーん、なんとなく」

良く分からないが、まあ、一生のうち二度と行かないような場所に行くというのも、今の俺たちにとってはアリかもしれない。

男らしく、即断した俺たちは、

「まあ、無駄に行ってみようか」
「えー、ホントに行くの〜?」
「あ、そう。辞めとく?」
「まあ、どうせやることないし、行く?」
「行く?」
「行くか・・・」

と、かなりのハイテンション(?)で改札を抜け、宇都宮線に乗り込んだ。

生涯初の宇都宮線である。しかし、そんな初体験もやはりテンションは上がりようがなく、二人は無言のまま1時間ばかり列車に揺られた。
窓から眺める光景が、広がる田園を映し出す、、、ほどの田舎でもないので何の感傷もないまま終点の籠原まで辿り着く。

「なんか、眠いね」
「そうだね。疲れたね」
「このまま、電車乗ってたら、上野に戻るよ」
「あー、それも悪くないね」
「まじ、そうする?」
「でも、もったいないから、一応、降りてみるか」
「うーん、一応そうするか」

などという大きな盛り上がりをみせた会話が、このときの俺たちの気持ちを表している。

しかし、この後降りた籠原駅は、人をバカにしているかのごとく何もない。
わずかに駅周辺をぶらりと見渡すと、細い路地にトタン屋根の建物が幾つか見えた。

「何ここ?つげ義春みたいな町だね」
「ホントだ。ネジ式だね」
「良い町だね。帰ろうか」
「良い町だね。帰ろう」

そんなわけで、わずか10分の滞在で、すぐさま籠原を後にすることになったのだが、あまりにここまで来た意味がない。
そこで、熊谷でメシでも食いつつ、来たことを悔いつつ、酔っぱらっちゃおう、という趣向に切り替えた。

熊谷は、隣の籠原とはさすがに違って、田舎街の中心街の風情を漂わせてくれていた。
そこで、適当に呑んだり、呑まなかったりしていると、時間はいつのまにか過ぎて、日が暮れた。

こうして日々は過ぎ、人生は終わるのである。

しかし、まあ人生が終わる前に、酔っぱらった二人の前に立ちはだかった客引きが、俺たちをキャバクラになど導いてくれたのである。

1時間3000円。
安い。

しかしである。。

安かろう。悪かろう。

あまり、言いたくはないが、どのコもあまりに接客する気のない、その素振りに、東京のキャバクラに慣れてしまった俺たちの心は、逆にひどく空しくなったのである。

また一段としょうがない1日に心を痛めたため、その後、静かに居酒屋で呑み直した俺たちは、うかつにも帰りの電車賃を使い込んでしまい、人生で初めてのキャッシングを覚えることとなる。

「へえ、お金って、こんな簡単に出てくるのか〜」

この行為が俺の今後の人生を大きく変えることとなるとは、このときの俺には知る由もなかったのである。
(なお、今の俺にも知る由もない)

おしまい。

 

投資額      約3,000円(交通費は含まない)
回収額        -100円(余計空しくなった)

収支         −3,100円

 

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