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仕事を辞めて、はや5ヶ月。
さすがに生き延びる術を失い、27歳にもなってバイトを始めたが、だからと言ってキャバクラになど行く余裕などあるはずもなく、
ここで俺のキャバクラ人生もお終いか。しかし、俺という肉体は滅びても、魂は永遠さ。
などと黄巾の乱を起した張角のような心境(参照・三国志)に陥っていた。
しかし、捨てる神あれば、拾うちり紙あり。
とは良く言ったもんで、このサイトを読んだTと名乗る男からメールにて「タダキャバクラ招待」のメールが来た。
別なオヤジに一度すっぽかされた経験があるのも忘れて、俺はこのメールに欣喜雀躍(喜びの意。最近覚えたので、使ってみた)して、即座に、
どうぞ、よろしくお願いします。
と申し出て連絡先を交換していた。
我ながら懲りない奴である。
しかし、驚くべきは誘いそのものよりも、次のT氏の文面にある。
Tが言うには、我がサイトの面白さに惚れ込みノートパソコンを千葉県は船橋にあるオキニの店に持ち込み、店中のキャバ嬢に我がサイトを見せつけた結果、女の子たちは皆このサイトを気に入り、俺の来店を心待ちにしているというのだ!
なんということだ。
この俺が、誰かに期待されている。
これは俺にとって大事件である。
はっきり言って、俺はこれまでの人生、あらゆる人の期待を裏切り続けて来た。
まず最初に、産まれて来たことで親の期待を裏切り、少年野球ではトンネル(しかも外野だったので、逆転サヨナラランニングホームラン)でチームの期待を裏切り、中学で転校した折にはなぜかハンサムが転校してくるという噂が流れたクラスメート(特に女性陣)の期待をまざまざと裏切り(俺の登場で大きな失望を産んだらしい。知るか)、会社に入っては上司の期待を裏切り続けたあげく面倒になって辞めてしまった。
よもや残りの人生で誰かから期待されるなどとは思わなかったが、思わぬところで得たチャンスである。
ひょっとしたらマジで人生最後の機会かもしれない。
この「期待」だけは決して裏切ってはならぬ。
俺は心に誓った。
しかし、俺が不細工であるというのは、言い逃れ出来ない事実であり、これを隠すのは姿を見せないか覆面でもして行くかのニ択しかない(俺ぐらいのレベルになると現代医学では整形も不可能)
しかし、姿を見せないのは店に行ったことにはならないし、覆面をしてたら店に入れてもらえるかも分からない。店に辿り着く前に警察を呼ばれる可能性もある。
なので、顔のことはあきらめることにして、他のことを磨くことにした。
ありがたいことに時間だけは無駄にたっぷりあるのをいいことに、家にあった「誰でも出来る簡単手品」という本で手品を複数勉強し、ネットで調べた洒落たアメリカンジョークと口説き文句を丸暗記した。
そして、第一印象が大事であるということから、「ペペロンチーノ!」と意味の分からない傍若無人な言葉とともに満面の笑みを浮かべることを挨拶にすることを思い付いた。常識に捕われない俺の底の深さを見せつける意味で我ながらナイスな発明である。
そして、念入りな一人予行練習の後、T氏との待ち合わせの日取りがやってきた。
また、すっぽかされるかもしれないという不安はあったが、船橋まで電車を乗り継ぎ辿り着くと、そこにはいかにも人が良さそうなT氏が立っていた。
俺みたいなクズのために、こんな、そこにいるだけで善人の空気を漂わしている男の金を使わせていいのか、と一瞬迷ったが、「まあ、いいや」と即座に思い直し、軽い話の後、T氏の行きつけのAという店に向かった。
聞くところによると、Aは船橋でも最高級の店だという。
そんなところに、この無職で引きこもりの俺を連れて行ってくれるのである。
感謝という言葉以外に言うことはない。
Aがあるビルのエレベータ−に乗り込む。
俺は緊張した。
俺は思わず「エヴァンゲリオン」の最終回のシンジ君が登場人物みんなに囲まれて拍手を受けている場面を
思い出した。
シンジ君が俺であり、店のスタッフ、女の子皆が俺に拍手を送る。
「キャー、あの人がキャバクラ独眼鉄さんだって〜」
「意外とカッコ良いじゃーん」
「私、アフター誘っちゃおう〜」
そんな悲鳴にも似た歓声があちこちから聞こえて来るなか、俺は堂々と案内された席に座る。
そして、俺に指名されるの求めて女の子全員が声を張り上げるのだ。
そんな、妄想も今日ばかりは現実になるかもしれない。
今回だけは、人の期待を裏切ってはなるものか。
俺は、「ペペロンチーノ、ペペロンチーノ...」と心の中で「掴み」の練習をし、T氏とともに店に入った。
店はさすがに休日前夜らしく繁盛していた。
入り口でいきなり名前を名乗ることはないので、席までは誰の歓声も上がることなく案内されたが、ここは妄想とは違うが、いた仕方がないことだ。
Tはオキニである御指名のRというコの指名を入れる。
俺はフリーで待った。心無しか喉が乾く。
そして、俺の隣にいよいよEという女の子がついた。
T氏が、
この人があの、キャバクラ独眼鉄さんだよ〜
と言ってくれた。
来た。
さあ、上がれ!歓声!!
俺はクールに装いながらも鼻高々でRや、Eの反応を待った。
しかし、およそ2秒後に返って来た答えは、
はあ、あなたがあの作者さんですか。
大変ですね。
というものだった。
えっ、それだけ?!
俺は、そのあまりのそっけなさに「ペペロンチーノ」の挨拶を忘れた。
なんで、なんで、俺、みんなの期待を浴びてるんじゃないの?
当人には聞けないので、ひたすら自問自答した。
しかし、それから、Eの話す話は「どこに住んでるの?」とか、「今日は帰れるんですか?」と途方もなく当たり障りのないものだった。
10分程して、Eが呼ばれて席を立った。
俺は次のコが来るのを大人しく待った。
ひょっとしたら、次のコは違う反応を示すかもしれないのだ。
ところがである。
時間が過ぎれども過ぎれども俺の席には誰も付かない。
T氏は、オキニとお話に夢中である。
俺は、やり場のない視線を店員のほうに向けてみる。
それでも、俺の席には誰も付けてもらえない。
放置プレイである。
そして、俺の持ち時間がなくなったとき、俺は初めて気が付いた。
そう、つまり、「期待」されていると思うこと自体が大いなる錯誤だった、と。
考えてみれば、自分の思いを吐き散らかしているだけのこんな無駄なサイトの作者から、なにを期待することが出来ようか。出来るはずはない。自分のことだから、都合良く解釈してしまっただけだ。
考えるべきは、「期待」に対する回答ではなく、「期待のない」こととの邂逅だったのである。
結局、最後まで誰も付けてもらえなかった俺は、引き続き飲み明かすというT氏に感謝の意を述べて、独り店を出た。
T氏は、店が込んでいて俺が放置されたことを、自分のことのように謝ってくれたが、もちろんT氏のせいであろうはずもない。
問題は、いつも自分に内在する。
俺は、コートの襟を直し、寒空の下、駅に向いながら思った。
そうか。
俺は、結局どこまで行っても俺でしかない。
そういうことだ。
その夜、俺は夢を見た。
母親の子宮の中で俺は、数万の精子に囲まれて罵声を浴びせられていた。
「俺達は、お前みたいな奴のために、受精を譲ったんじゃないぞ!」と。
そう。
俺は数万の他の親父の精子に勝って産まれてきたのだ。
こんなことで負けていられない。
まだまだ、人生は続くのである。合掌
P.S Tさん。色々書きましたが、御馳走になってホントに感謝しております。
今さら、俺に奢ってでも会いたいと思ってくれる人がいるだけでも、感謝感激、生きる糧になりました。
投資額 0円(T氏が投資)
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