俺に明日はない

※この頃、わずかな退職金も使い果たし、資金繰りが著しく悪化


自未得度先度他(じみとくどせんどた)

曹洞宗を開いた道元禅師がこんな言葉を言った。
これは、「自らは未だ得ていなくとも、まず先に他人に得させてあげる」という意味である。
仏教用語でいう「発菩提心」に繋がる心だが、俺は予期せずしてこの心意気に至った。
先日、このサイトにKという三十数歳の男からメールが届いた。
どのような経緯があったかは定かでないが、Kは、この「キャバクラ独眼鉄」を読んで、救われたという。とにかく、笑いに笑って何やら悩んでいた心を助けられたらしい。
俺個人的には、自らの体験を晒しているだけで、誰かを救うつもりでもないし、ましてや「笑わせている」つもりもなかったので、ひょっとしたら「笑わせている」というより、むしろ「笑われている」というような誤解が含まれている気がしたが、それはそれとして、俺みたいな凡夫(煩悩に支配されて生きている人間)でも、人様を救うことが出来るのか、と嬉しくて思わず小躍りした。

エラい。良くやった、俺。

俺は、自分を有森裕子の2.5倍ほど誉めてやった。
しかし、驚くべきはKのさらなるメールの続きにあった。
そこにはこうあった。

お礼にキャバクラをおごりたい

と。
な・なんと、タダキャバ である。
この言葉の魅力は一口には言い表わし難い。
ただ単に女の子のドリンクに気を使わなくて済む、というものだけではない。
じゃあ何だ、と言われると答えに窮するが、この言葉には他を寄せつけない魅力がある。(タダキャバごときに寄せつけれない他の魅力も切ないものがあるが)
いきなり、メールで知り合ったおっさんと一緒にキャバクラに行くという図式もどうかと思ったが、失業3ヶ月の俺の資産はもはや壇の浦の平家のごとく(またはハロプロの平家みちよのごとく)風前の灯火である。今俺が自腹を払ってキャバクラに行くことは寿命を縮めるに等しい。が、タダキャバなら違う。まさに俺の人生に一輪のバラを捧げるがごとくである(意味不明)
俺は即レスで、

よろしくお願いします。

と申し出ていた。
その後、お互いの連絡先を交換して、某日、いざ吉祥寺駅で待ち合わせることにした。

タダキャバ。
なんと良い響きであろうか。
そして、世の中には危篤、奇特な人がいるもんだなあ、と感謝した。

ああ。生きてて良かった。
今までの人生、ダラダラと誰の役にも立たずに生きてきたけど、それでも幸福は平等にやってくるんだなあ。

と、いつぞやも思ったことを改めて思いながら、待ち合わせの場所に行くが、待ち合わせ時刻を過ぎてもそれらしき人はいない。
教えてもらった携帯に電話してみると不通。。
でも、この時点の俺は、

まあ、普通の人は平日には仕事があるもんだから、遅れることもあるだろう。

という程度にしか思わず、マンガ喫茶で気長に待つことにした。
楳図かずおの「洗礼」などを読んで、時間が過ぎるのを待ったが、待ち合わせの時間を2時間を過ぎてもいっこうに連絡をよこす機会はない。こちらからの電話は相変わらずの不通である。
この時点で俺はようやくあることに気が付いた。
そう。つまり、

すっぽかされた。

と。
キャバ嬢との同伴なら5分もあれば気が付くことを、まさか知らないおっさんがわざわざメールまでよこしてまですっぽかすとは思わなかったので、気が付くのが大幅に遅れてしまったようだ。

ああ、夢のタダキャバが。。

俺は放心した。
その途端尿意を催したので、駅のトイレで放尿したが、そんな余談はともかく、俺は考えた。考えてみれば、そんな都合良くキャバクラなんぞを奢ってもらえることなどあろうはずもない。うかつだった。
しかし、この「今日はキャバクラ行けるぜ」テンションを抱えたまま、大人しく家に帰れるわけもない。
だが、財布には今月の生活費として残されているわずかな金しかない。

行くべきか。
行かざるべきか。

俺は自問しながら、吉祥寺の駅周辺をふらふらと3周した。
そこで、何度も顔を合わせた客引きが珍妙な顔をしたが、さらに俺は悩んだ。

行くも地獄。
行かぬも地獄。
どうせ、地獄なら、行かなきゃ損ソンか。。

どこかで耳にしたことを反芻して、俺は一軒だけと自分に言い聞かせて、Aという店に突入した。
Aにフリーで入ると、そこで3人の女の子が付き、それぞれみな魅力的でそれなりに楽しく会話はさせてもらったが、だからと言って何か面白い話に至るわけもなく、大人しく1セットで店を出た。
税金を合わせて、総額3150円。
キャバクラとしては、破格の安さだと思うが、無職の俺にはズシリとしみ込む重さである。
サラリーマンとして働いていたときは感じなかった重みに、心を痛めながら思った。。

俺に明日はない。

そろそろ潮時である。。


本日の結果

投資額   3,850円(キャバクラ+マンガ喫茶代)
回収額 
     0円(あるはずもなし)
収支   −3,850円

 

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