同情より営業を。

 

Mという指名嬢から久々に電話があった。

今週で、お店辞めちゃうんだ。

Mはこう切り出した。
実はこのM、この章のどこかに出てきたMと同人物なのだが、早い話、長らく通ったのに名前も教えてもらえないほど一時期仲が良かった子だ。

最後に会えたらいいな。

Mは俺に語り掛けた。
ちょっと、いじらしい口調だった。
しかし、俺は、

ふざけんな。
お前みたいに人を金づるとしか思っていない女とは二度と会うか。

・・・などとは言えるわけもなく、

分かった。じゃあ、明日の9時ごろ行くね。

と、優しい口調で明確な約束をしていた。
我ながら、この性格でキャバクラに通い詰めることは、かなりの自殺行為のような気もしてくる。
しかし、それはそれだ。
当日、悲しいかな、名前も教えてくれないほどの信用なのに、

ひょっとしたら、気を向き直してくれたのかも。

などと淡い期待を抱いて(淡すぎ)、銀座で4000円ほどのプレゼントなんぞを買ってから行く。
情けないですねえ。
みっともないですねえ。
などと自嘲しているうちにお店に到着。
Mの所属する店は、ドアを開けると、店の女の子の人気が一目で分かるようになっているのだが、それを見て驚いた。
この間まで新入りのペーペーだったはずのMが、なんと指名ナンバー1に上り詰めていたのである。
こういうのは、本当は喜ぶべきことなのかもしれないが、自分に誇れるものが何もない俺には、惚れてた子が人気になるのは、みみっちくもあまりいい気分はしなかった。
大混雑した店内の中から、Mが現れる。
Mは笑顔で久しぶり〜と近寄ってきた。
しかし、その久しぶり〜の態度には辞めるという悲壮感もなければ、俺が通うのをやめた期間の寂寥感なども微塵も感じられない。
どうやら、単に辞める前の指名稼ぎに引っかかっただけみたいだ。
手に抱えたプレゼントがとても痛々しく渡されるタイミングを待っているが、Mは5分も立たないうちに別の指名客のもとへ行ってしまった。
一人の持ち時間が5分。すげえ、人気である。
あまりに未練がましい行動を取った上に、その当人ともまともに話す時間もないという状態に、ブルーな気分が広がる。

時間前だけど、帰ろうかな。

なんてことも考えていると、丸顔で美人のKという子がヘルプで付いた。

へえ、他にも可愛い子がいるもんだなあ。

とは思いつつも、すっかり鬱モードに入った俺は子供のようにスネてしまい、Kに対してもマヌケなほど意固地な態度を取っていた。
ところが、そんな俺を包み込むようにKは必死に話し掛けてくる。
そして、携帯番号の書いた名刺を差し出すと、俺からも連絡先を聞き出してきた。

あれ、この店、ヘルプの子がお客に名刺渡すの禁止だったよな?

という疑問が沸いたが、Mに指名入れているのを知らないのかも、と思って受け取る。
そうして、Mが次のローテーションで回って来ても何も引き出せるものがないと確信した俺は、お店を早々に後にした。
Mとは、もう会うこともないだろう。ホント、何もない別れだった。

翌日。
仕事の昼休みに携帯の着信が鳴った。
出ると、昨日ヘルプでついたKである。
Kはまずは、昨日は来てくれてありがとう、と言ってきた。
そして、その後、

Mちゃん、今週でいなくなっちゃうんだってね。

と明らかに心にもない上での寂しげな声を出してきた。
「やっぱり寂しいですか?」と俺に聞いてきたが、別にどうとも答えようがないので、黙っていると、

今度はわたしに会いに来てもらえませんか?Mちゃんよりも楽しませます。

と言って来た。

ぬう。

思わず俺はうなり声をあげてしまった。
基本的にキャバクラで指名代えは禁止ではないが反則である。変えられた子にも嫌われる上、女の子同士の仲もギクシャクするため、新しく指名した子や周りの子にも良いイメージを持たれないというリスクある行為である。
そのため普通ヘルプは、自分の宣伝はしないし、営業の電話も掛けてこない。
昨日のKの必死のテンションは、これだったのだ。
つまりKは、俺が未練がましくもMにお別れを言いに来た間抜けな客であることを昨日席についた時点でとっくに知っていて、そんな俺が今後は別の誰かを指名するだろうという読みから、完全にターゲットにしていたわけだ。
Kの見つめる目には、俺が指名ポイントという札束に映ったのかも知れない。

うーん、たくましい。

しかし、ここまで明け透けな営業をやられると、むしろ乗ってみたいという気も沸き起こる。
果たして、俺がこの後Kを指名することになるのか。
自分のことながら今後の展開に目が話せない。


本日の結果

投資額    16,000円(プレゼント代4000円含む)
回収額          1円(Kに見つめられる)
収支    −15,999円

 

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