バンコク体験記

 10 コープクンカップ!バンコク その参(三日目)

 

片言の英語を駆使してのエルビスとのサシ呑みも1時間が過ぎたところで、俺は再度求道者氏に電話を掛けた。交通事故の示談は金の力であっという間に取り付け、まもなくこちらに到着するという。
そこで、二人で待ち合わせ場所に向かった。
初顔合わせとなるエルビス求道者氏たち(昨日逢ったC氏とD氏の他に同じく同僚のE氏も帯同)。
しかし、やはりここでも挨拶はそこそこに「さあ行きますか」と呑みに向かった。
途中、現地人の彼は外国人街で呑むほどの金はないといって、尻込みしたのだが、「トゥデイ、オーライ−、オラーイ!」と強引に引っ張って行った。
なにせ求道者氏がいるのだ。バンコクのバーで一人飲み代が増えたくらいでは端数の範囲内だろう。

そんな3日目の夜も幕開けは、オカマだった。
バンコクのオカマはそんなにいいのか?と聞きたくもなるだろう。
答えよう。
そんなにもいいのだ。
オカマ初体験で驚愕するエルビスを尻目に、俺は初日についたコを指名した。
そして、

またおっぱい汁見せてくれよ、おっぱい汁。

とねだると、彼(彼女?)は自分の胸を揉みしだき、再びおっぱい汁を出してくれた。
俺は、

おおっ!!

とまた感動をしてチップをやろうと財布を取り出した。
ところが、財布のなかの紙幣は100バーツが切れて、1000バーツ(約3000円)紙幣しかなかった。
そこでウエイトレスに両替えを頼もうと1枚の1000バーツ紙幣を財布から取り出した。
その瞬間だった。事件は無駄に起こった。
目の前のカマがその1000バーツ紙幣を、

これちょーだい!

と掴んだのだ。
いくらなんでもテーブルダンスごときで1000バーツのチップはない。
俺は「アホか!」と日本語で怒鳴ったが、相手には通じない。ここで俺の1000バーツ紙幣をロープよろしく綱引きが始まったのだ。普通こんなのは冗談だとすぐに指を離すと思うだろう。ところが、そいつは一向に指の力を弱める気がなかった。

こいつ、本気だ!

俺の動悸が高まった。
この目の前の男だか女だか分からないやつは、勢いにまかせて本気で俺から1000バーツ紙幣を奪おうとしている。
この勝負、先に指を離したほうが負けだ。
俺は徐々に熱を増してきた指先にさらに力を込めた。
そのときだった!
ビリッというイヤな感触がしてお互いの指が離れたかと思うと、なんと俺の1000バーツ紙幣がモーゼの十戒のように真っ二つに割れたのだ!
やはり紙幣で綱引きをするのは無理があったようだ。
しかも、焦る俺を尻目に、破れた半分の紙幣をなおも離さない馬鹿オカマ。
さすがの俺もムカッときて「ノーノー!!」と叫びながらウエイトレスを呼んで、ようやく紙幣を回収してもらった。

思うに、なぜこのような強引で無教育なキャストが存在してしまうのかというと、その原因は客にある
こういう店で無駄にチップをバラまいたりする客がいるから、こんな身勝手なキャストが育成されてしまうのだ。
チップをまいている他の客が腹ただしくなりつつ、ウエイトレスから両替えされた100バーツ紙幣を数えると、なんと8枚しかない。俺は一瞬、100×8は1000だったっけ?と勘ぐったがそうではなく、ウエイトレスは背中越しに「チップチップ」と手を振った。
両替えするだけで2割のチップとはとんでもない店だ。
しかし回収するのも面倒になったので、1軒目の店を出た。

2軒目は、いわゆる日本人御用達の高級スナックだった。
客はスーツ姿の中年日本人しか見られない。我々以外のほとんどは接待で使われているようだ。
それにしても、日本人はホントにアホだ。
なんでバンコクまで来てこんなカラオケ常備の閉鎖的な日本式の呑み屋を作らなければならないのか。はっきり言って同じ日本人として恥ずかしかった。
あまりに恥ずかしかったので、思わずマイクを取って、尾崎豊を熱唱してしまったくらいだ。全く恥ずかしいにも程がある。
しかし、この店には途中で恥ずかしさも忘れる素敵なショータイムがあったことを付記しておきたい。

客室とは別に用意されたステージに案内されると、そこでとんでもない美人モデルのストリップが見ることが出来た。単に可愛いだけなら街を歩いていても大勢見かけたが、そのモデルはそういう一般的な美人とは一線を画す、ほとばしるような高級感があった。
聞くと、タイでは商業誌で活躍する、かなり有名なモデルさんだという。日本人の店だからこういう仕事をしているらしい。
長谷川京子がアメリカ人御用達の店でストリップをやっているような感覚か。
金の力とはまことに恐ろしい。
俺はまた外聞もなくジャパンマネーを駆使する日本人が恥ずかしくなって、そのモデルに手招きすると自分とエルビスの分のチップをパンティーにねじこみ、テーブルダンスをお願いした。股間の膨張とともに、恥ずかしいことこの上ない。
当のエルビスはというと、あらゆることが初体験らしく、恥ずかしさで目を覆いショーを凝視出来ないというシャイネスぶりを見せつけていた。
呑み屋にも何年も通い続けていると、自分が楽しむというより、人が楽しんでる姿を見てるほうが楽しいという時期がくる。
俺も「オヤジ」になったものだと、感慨に耽りながらこの旅行最後の夜に全員で食事をすることにした。

しかし、入ったタイレストランでまたもや事件が起きる。
片言のタイ語とそれなりに流暢な英語を使いこなせる求道者氏は、エルビスとアッという間に仲良くなって、なんといきなり「恋人がいるかいないか」などという会話をしているではあーりませんか!
そして、とうとうエルビスが俺のことを親指で指差し、

彼のガールフレンドの写真さっき見たよ

などと冷やかすように口にしたのである。
求道者氏が俺を見て、

ええっ!アンタに彼女??

と驚いた声を上げたのは、 俺を知る人間なら、膝下をトンカチで叩くと足が跳ね上がるがごとく正しい反応である。心が脚気(かっけ)でもない限り疑問に思わない知人はいない。

俺は焦った。
絶対バレない自信があったからこそ付いた先ほどの嘘が、まさかその日のうちにバレることになるとは。
しかももうすぐ30になる男が付く嘘とは思えない、チンケな嘘である。
俺は、タイまで来てこんなチンケなことで信用を失う自分があまりにみじめに思えて、

ええ、まあ。。

と白々しく嘘の上塗りした。
もしも、求道者氏が、

俺にも彼女の写真を見せてよ。

などと言ってきたら一貫の終わりだ。
なにせ、求道者氏は俺が見せたキャバクラの女の子を実際に知っているのだ。おまけに俺がどんなに指名しようが同伴すら出来ないことまで熟知されてる(涙)
俺は縮こまって次なる彼のツッコミに備えたが、酔った求道者氏には別に誰に彼女がいようとどうでもいいことだったのか、「あっ、そう」と言ったきりこの話題はこれ以上広がることはなかった。

バンコク最後の夜に、俺はまさに九死に一生を得たのである。

 


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