バンコク体験記
6 マイペンライ!バンコク その弐(二日目)
2日目の夜も、出だしはパッポン通りのオカマからのスタートだ。
バンコクのオカマはそんなにいいのか?
と聞きたくもなるだろう。
答えよう。
そんなにいいのだ。
ところで、この日店に入る前に、俺と求道者氏はある悪巧みをすることにした。
実は、求道者氏の同僚のC氏はニューハーフのお店に行ったこともないらしく、そこで彼に、この店がニューハーフの店とは教えずに入店したのだ。
日本では夜遊び経験豊富ながらもバンコクの夜はわずか2度目という彼は、さっそく選んだコがお気に召したらしく、1500バーツ(約4500円)でちょろっと遊んでくるという。つまりは夜のお相手である。完全にこの店がニューハーフのお店だということを気付いていないようだ。
そうして、小1時間ほどですっきりと戻ってきた彼に対して、ニヤニヤしながら、求道者氏が、
さっきキミが抱いたのはオカマだよ
と告げたやった。
さぞかし大きな動揺をするだろう。
わくわくして彼の反応を待った。
しかし、彼は我々の期待した反応は示さずに、表情も変えずにこう言った。
ああ。そんなんどっちでもいいよ。
さすがは求道者氏と長い付き合いというか、鬼畜である。とっくに男女の差なんてどうでもよくなっているようだ。今度騙すときは、整形したヤギでも抱かせてみるしかあるまい。
続いて入ったのは、タニヤ通りの日本人対象のお店である。
店内は、あきらかに日本のスナックを意識した店作りだ。
日本語のカラオケも完備してある。
それぞれ女の子を指差し選んで、個室の一つにみんなで入る。
ふと見ると、部屋の壁紙に「野球拳」の文字が。
負けたら、客は50バーツの支払い。買ったら女の子が服を1枚ずつ脱いでいくというのだ。
もちろん、やるしかない。
こんな楽しいゲームは、ヘタレ日本のキャバクラでは経験することが出来ないからだ。
ルールは、それぞれの指名嬢と対峙、勝負は1対1で、どちらかが10勝するまで続く。
すなわち、勝てば間違いなく相手は全裸。負ければ500バーツ(約1500円)だ。
他のメンバーは、面倒臭い様子でおざなりのじゃんけんを繰り返したが、俺は燃えに燃えた。
俺は、すぐに勝負を挑もうとする彼女を制し、目を神妙に閉じ、2度ほど深呼吸すると、手の平を蒼天にかざした。そして、全神経の気合いを指先に込めた。
気孔の達人なら、俺の指先からほのかに青白いオーラが出ているのが見えたはずだ。
最初はグ−!
その1秒後に待ち受けるのが、運命の分かれ道だ。
俺は気合いとともに叫んだ。
じゃんけんぽこちんっ!!
瞬間、時空が停止した。部屋の空気が、俺のあまりの気合いのために絶対零度で凍り付いたのだ。
オーラのともなった俺の指先が差し出したのは会心のグ−だ。
対する彼女が出したのはチョキだった。
勝った!!!
俺はロナウジーニョも真っ青のガッツポーズで、
いやっほー!!!
ばーか!ばーか!!
ぎゃははははっ!!!!
と、負けた彼女を、指差しながら気が狂ったように喜んでみせた。
勝負の要はいかに冷静さを保つかだ。ジョセフジョ−スターがダービーを前に、わざと「バービー君」とか「オービー君」とか間違った名前で呼びつけたように、俺は彼女の冷静さを削いでやった。
そんな人を喰ったお茶目な俺を前にして、彼女は悔しそうに上着を一枚脱いだ。
次の勝負を急ぐ彼女。
しかし、勝負はもう見えた。
ジャンケンは時の運なんかではない。
1回や2回の勝負なら、負けることはあるだろう。ところがこれが10回、20回になると、心理戦だ。
心理戦ともなれば、俺の左に出る者はいても右に出るものはいない。昔から、人生と恋愛については負け続けだが、ジャンケンの心理戦では負け知らずである。
あと怖いのは相手の気合いだけだったが、それすらも初回の勝負で俺が上回っていたのだ。
もはや負ける要素は一ミリもない。
案の定、最終的な結果は10勝2敗の大勝だった。
俺は全裸になった彼女を見下ろしながら、勝ち誇った顔を浮かべた。
天は我にあり。
ただ、この精子・・・否、生死をかけた勝負に少し残念だったことがある。
それは、他のメンバーのなかには負け越した者もいたのに、結局女の子は全員全裸になったことと、ついでに、ゲーム費用もチップとして全員500バーツ取られたので、勝敗は結局どうでも良かった。
また、どのコも羞恥心など欠片もみせず、全裸になるや否や「ねえ、今晩あたしを買ってぇぇ(はーと)」と腰を擦り寄せてきたことだ。
羞恥心と勝敗無視の「野球拳」になんの面白さがあるだろうか。。