「世界がきしむ音」


 
一、
   

世界がきしむ音
世界がきしむ音が聞こえる


 
どうでもいいこと
どうでもいいことが
どうしようもないほど悲しいんだ
どうでもいいことなのに
悲しすぎるんだ
 
 
 

どこまでも真っ直ぐな道の真ん中に
一本の古い木があった
その側を通るものは誰もがそこで足を止め
思い思いの言葉を刻んで行く
その年取った木は
どんな言葉も忘れることなく
いつまでもその道の真ん中にあり続けた
刻んだ当人も振り返らない言葉を
ただひたすら記憶に留め
誰かを待つでもなく
何かを望むでもなく
いつまでも
その道の真ん中にあり続けた
 
 
 
 

一日中 話し声が聞こえている
俺がいくら黙ってたって
常に誰かが俺に話し掛けてくる
どんなに耳障りな声だって
俺には拒むことが出来ないんだ
 
 
 
 
 
呼吸障害
息が苦しい
きっとこれは空気のせいだ
俺のせいではない
だから俺は大きく地面を蹴って
空気の水面から顔を出そうとした
だけども息苦しさは変わらない
俺は何度も何度も地面を蹴って飛び上がった
やがて俺は胸が苦しくなって
息苦しさから解放された
 
 
 
 
 
ふり
黙って詩人のふりをする
何も喋らなけりゃバレやしない
誰の目にも俺は詩人
言葉を持った俺は詩人
 
 
 
 
 
部 品
誰にも修理できない部品
まるでそんなものだ
 
 
 
 
時 計
何かを思い出そうと
考え込んでも
何も知らない時計の針だけが回り続けている 

 

 

衝 動
疑問符は
打ち付けられると同時に
破壊される
 
 
 
 
 
貧 困
何でもいい
何かくれ
 
 
 
 
 
窓のない部屋
何かがひっかかる
窓のない部屋
言葉にならない声
遠い思い出
見ることの出来ない自分の影
感情
真実
孤独
忘却
売春婦の性器のような曖昧な黒さで俺のことを犯すので
俺はいつだってお前らが嫌いなんだ
 
 
 
 
 
純白者
やったぞ

とうとう
お前を犯したので
俺は純白を得たんだ!
 
 
 
 
 
孤 独
本当の孤独であった試しがない
俺はいつもメモ帳を用意して
孤独を書き連ねる
言葉にされた孤独が
現実であるはずがないのだから
 
 
 

殺人予備罪
俺はいつだって世界を殺せる
だから朝が来る前には眠れるんだ
 
 
 
 
 
告 白
今日こそは告白するんだ
どうだ参ったか
 
 
 
 
 
 

目にも留まらぬスピードで
走り抜けていくものが
まるで止まっているかのように
俺には見えた
 
 
 
 
 
 
危険予知
あー
危なかった
もう少しで助けるところだった
 
 
 
 
 
赤いランプの音
どこかの街の十字路の
赤信号の真ん中で
男が両手を広げて立っていた
車がブーブーとクラクションを鳴らして
男を避けてハンドルを切っていくが
たまたま走って来た救急車は
ブレーキも間に合わずに男を撥ねた
男は両手を広げたまま
何メートルも空を飛んだ
それを見ていた人たちは
きっとその光景を美しいと思ったのだろう
誰もが思わず感嘆の声を上げた
青ざめた救急隊員によって
男は自分を撥ねた救急車に乗せられて
赤いランプと喧騒を響かせて運ばれていった
一瞬
赤いランプが見えなくなっても
その喧騒だけは永久に続くかのように思えたが
やがてどんなに耳を傾けても
一分後には何も聞こえなくなったのが
とても不思議な気分だった
 
 
 
 
 
 
満員電車
電車が来た
いつものように満員だ
誰も降りるものがいないので
どうやら今日も乗れそうもない
 
 
 
 
 

目だ
俺は自分の目が気に喰わない
 
 
 
 
 
 
人 生
俺はまたお決まりの恐怖に打ちのめされる
その言葉は生きていることを忘れさせ
そして思い出した途端に
人生を歪んでみせるのだ
 
 
 
 
 
人殺し
俺は良く
誰かを殺す夢を観る
俺が止めた誰かの時間を
別の誰かがやってきて
取り戻すことなどあるのだろうか
 
 
 
 
 
汚れた妄想
奴等の声を聞くと
いつも頭が痛くなる
奴等は何も考えていないくせに
声はでかくて甲高い
奴等は頭が悪いくせに
記憶力だけはいいので
どっかで耳にしたことを
何度も何度も繰り返しては
首を縦に振ることを強要する
口を開くと
揃って強度近視の一重まぶたが俺をにらむ
白痴の外科医師ども
真夜中のサイレン
腐りかけの林檎
汚れた空気
虫の羽音
狂気またはその衝動
奴等の息の根を止めてやれ
誰かが俺に囁いた
そしたらお前の頭痛を止めてやる
 
 
 
 
 
二人の女
目の前に二人いたはずの女が
実は二人で一人だなんて
あまりに短絡的な解答じゃないか
 
 
 
 
 
 
摩擦熱
靴底に貼りついた言葉が
いつまでたっても剥がれない
俺の歩みを重くして
進むたびに俺を疲労させる言葉は
地面との摩擦で熱を帯びる
やがてそいつが燃え尽きるときには
きっと
俺の両足ごと燃え尽きるつもりなのだろう
 
 
 
 
 
 
脱線事故
何故かは分からないが
その線路は大きく斜めに歪んでいた
側を通りかかった俺は
走ってくる電車に手を振ってでも
そのことを知らせるべきではあったが
黙ってその場を通り過ぎてみると
案の定
後方で電車が脱線する音が聞こえた
 
 
 
 
 
 
包 帯
臭くて臭くて仕方がない
包帯を巻いたままにしていたら
俺の体が腐ってきたようだ
 
 
 
 
 
 
道外師
世界中が俺を笑っている
そんな夢を観た朝は少しだけ気分がいいんだ
 
 
 
 
 
駄 目
もう駄目だ
あとはお前が勝手にやってくれ
もう駄目だ
 
 
 
 
 
願 い
お願いだ
俺を笑っておくれ
蔑んだ目で俺を笑っておくれ
でないと
俺は気が狂いそうだ
お願いだ


 
 
 
 
 
二、
 
 
 
 
 
 


憂 鬱
誰かが落としていった憂鬱を
お前は拾って歩いている
そんなに他人の憂鬱を集めて
一体どうするつもりだろう
 
 
 
 
 
 

お前はコンクリートの壁に背をもたれている
知っているのだろう
お前が今 背をもたれている壁のことを
そいつはどこにでもあるコンクリートの壁
溶け出すほどの勇気もなく
飛んで消えるほどの意味もないそいつが
お前には一番安心なのだ
いつだか 誰かが蜂蜜を持ってきて
お前の足元においていった
だけどお前は手を伸ばすこともしない
やがて蟻の大群が来て蜂蜜を洗いざらい運んで行くのを
色のない顔付きで眺めていた
ガラス窓や障子が嫌いな理由
凍えた灰色のコンクリートがお前にただ似合っていただけだろう
お前はその壁が好きなのだろう
温度のない薄暗い匂いのするその壁が好きなのだろう
だけど夢を観るのはやめておいたほうがいい
寝るにはそこは冷た過ぎるから
 
 
 
 
欠 落
取り返しのつかないことをした
仕方がない
もうやめてしまえ
それで済む
 
 
 
 
 
回 転
歩いたって
走ったって
止まったって
どうせ回り続ける
 
 
 
 
 
 
 
殺 意
仮に道端で寝ている猫に
突如として殺意を抱いた者がいたとして
そいつをお前は非難できるだろうか
仮に道端で寝ている猫に
突如として殺意を抱いて近づいた者がいたとして
そいつをお前は非難できるだろうか
仮に道端で寝ている猫に
突如として殺意を抱いて近づいた者が
手に鋭く光るナイフを持っていたとして
そいつをお前は非難できるだろうか
仮に道端で寝ている猫に
突如として殺意を抱いて近づいた者が
手に鋭く光るナイフを振り下ろしたとして
そいつをお前は非難できるだろうか
猫が殺意に気付くのを心の底から祈ることができるだろうか
 
 
 
 
 
 
やり方
本気なのか
そんなやり方じゃいつまでたっても生きたままだ
俺がもっとましなやり方を教えてやる
こうだ
 
 
 
 
 
 
飛 躍
飛び上がって
死ね
 
 
 
 
 
ため息
ふー
 
 
 
 
 
 

お前はタンバリンの音
俺が決めたのだから
間違いない
 
 
 
 
 
 
捜索願い
一瞬でも早く会いたいと
お前は家から飛び出してきても
今朝は顔を洗うのを忘れたからと言って
顔を見せることもしやしない
だから
お前は今日も行方不明だ
明日も見付かる希望はない
 
 
 
 
 
 
距 離
そんなに側にいる必要はない
離れていてもきっと見える
 
 
 
 
 
 
輪 廻
生き急ぐと
お前は二度と産まれない
 
 
 
 
 
感違い
悩んでいるな
勘違いするな
苦しんでいるな
勘違いするな
楽しんでいるな
勘違いするな
悲しんでいるな
勘違いするな
お前はひどく感が悪い
 
 
 
 
 
 
 
冷凍人間
眠れ
眠れ
今はただ眠れ
どうせ起きたら
また思い出す
眠れ
眠れ
今はただ眠れ
どうせ起きたら
嫌でもまた思い出す
 
 
 
 
 
 
詩人の血
詩人の流した血は
やはり言葉で埋まっているのだろうか
 
 
 
 
 
 
前 髪
あまり前髪を伸ばすのはやめたほうがいい
その前髪が目にかかる頃
お前を探しに来るやつを
その前髪のせいで見逃すことがあるかもしれない
そいつが仮に殺人犯ならば
何も問題はなかろうが
仮に将来の恋人であったならば
お前にとって大いに痛手となるであろうから
 
 
 
 
 
 
帰り道
夜になる前に帰ったほうがいい
お前は馬鹿だから
きっと太陽が沈むのと同時に
帰り道を忘れてしまう
 
 
 
 
 
虚無主義者の破壊衝動

 
 
 
 
 
望 み
お前が望んでいることを当ててやろう
奇麗な死に顔
それがお前の望み
誰からも煙たがられない
奇麗な死に顔
それがお前の望み
 
 
 
 
 

はじめにあった音を八つに割ってみた
誰もが平気な顔をしているので
今度は十六に割ってみた
まだ何とかなるよとみんなが口を揃えるので
今度は三十二に割ってみた
さすがにみんな苦しそうな顔をし出したが
六十四に割ってみた
すると逆に誰も音が聞こえなくなったと言う
誰もが耳にすることが出来ない音
お前もきっと例外ではない
 
 
 
 
 
 
間違い
間違いを探すのが面倒ならば
何も間違わなければいい
 
 
 
 
 
 
最期の言葉
もう
お終いだから
最期に言い残す言葉など
何もないんだ
 
 

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