にんげんだもの。 


先日、またありがたいことに、俺のもとに呑みのお誘いがあった。
saku氏と、もう一人掲示板に顔を出してくれるサスペンダー氏からである。

ちょっと余談になるが、昔パンクロックを突き詰めて聞いていたころ、たどりついたのが「殺害塩化ビニール」というインディーズレーベルだった。
ごくごく一部では有名なレーベルなのだが、すでにそのレーベル名で排他的なイメージを与えているのを感じるだろう。そして、ここに所属しているバンド名がまだやばい。このレーベルの社長率いる「猛毒」を筆頭に「四日市ぜんそく」「エイズ」「アナル番長」「腐乱シュタイナー」などなど。永遠にメジャーにはなりえない運命を自ずから背負うかのごとく、人に嫌われたり不快感を与えるのが目的で彼等はバンド名を決めていた(ちなみに演奏や歌詞もひたすら不快である)こういったネガティブな精神も広義の意味ではパンクの精神として、たまに受け継がれる。
かたや、聖飢魔のデーモン小暮が、一番ダサイバンド名を考えて、「ふな」とか「走り幅跳び」なんていうバント名を上げていたことがあった。これは行き過ぎたカッコ良さはカッコ悪さと背中合わせであることを理解した上で、どうせだったら逆のベクトルで考えようということだ。
「明日のジョ−」じゃないが、カッコ悪いが、カッコ良いになることだってあるだろう。

そんなわけで、「サスペンダー」である。
原語は、言うまでもなく、ズボンをつるベルトを意味する。
世の中にある幾多もの言葉の中から、そんな常にデブとセットに扱われている品物をわざわざハンドルネームとして採用する経緯とは一体なんだったのだろうか?
上述した二つとも微妙に当てはまらない彼の意図を、直接逢って、確かめなければならなかった。

そして、いざ待ち合わせ当日である。
saku氏とサスペンダー氏は、すでに地元である某駅に先に呑んでいるという。
ところが、ここで急に問題が起きた。
以前、キャバクラで知り合ったある女の子が「彼氏に家を追い出されて帰るところがない」と俺に泣きついてきたのだ。しょうがないので、夜の夜に荷物の運び出しやら何やら手伝って、そのコを自宅に連れてきた。おまけに心労で体調も崩して発熱していたので、布団を引いたり買い出しに出掛けたりして介抱をしていると、時間は0時を過ぎてしまった。
さすがに断りを入れようと、サク氏に電話すると、やたらとハイテンションで、

今、寿司屋でアフターしてるから、来い!今すぐ来い!!

と怒鳴ってきた。
相変わらず自分勝手な方である。
ただ、確かに、約束した手前もあるし、初対面のサスペンダー氏には期待させた分、悪いことかもしれない。
それになにより、アフターの最中に知らない男が飛び込むという訳の分からないシチュエーションは体験しておきたい。
一度かられた好奇心は取り払うことが出来ずに、隣室の女の子に「1時間で戻ってくるから、ちゃんと寝てるように」と布団を掛け直しながら告げると、部屋を出た。
家の下でタクシーを捕まえると、10分ほどで彼等がいる寿司屋に辿り着いた。

そこに2対2でバカ騒ぎしている男女を発見。
挨拶すると、saku氏の隣にいたサスペンダー氏と思われる男が、いきなり笑い出した。

鉄さん?ホントに鉄さん??(爆)
違うよ!イメージ全然違うよ!(爆)

と言って俺の顔を見て、笑い続ける。
やむを得ず愛想笑いでも浮かべて彼との会話を試みようとするが、彼はひたすら笑い続けて、会話にならない。
彼の隣にいた指名嬢が、「ちょっと、それ失礼じゃないの」と明らかに不愉快な顔をしているにもかかわらず、彼は「だって、おかしいっしょ!」とか言って笑い続けた。
完全に、制御不能である。
そうこうしているうちに嬢達が「お先に」と言って、席を立った。
デロデロに酔っているサスペンダー氏に、なんとか普通の会話をしてみようかと思ったが、すぐに無理だと感じて諦めた。
結局、サスペンダーの名前の由来も聞けず仕舞いであった。

家に帰ると、女の子は静かに眠っていた。
明日、起きるとこのコは実家に帰り、やがてまた別の男を見つけて、その誰かと新しい生活を始めることだろう。

後日。実はまたサスペンダー氏と逢う機会があった。
「先日の醜態の記憶が全然ない」と頭を下げて来た彼は、一転してもの静かな好青年に変わっていた。実際のところは、裏のない感じの良い男であった。酔うと仮面ライダーのごとく変身するらしい。
その彼が、

俺も鉄さんみたいに格言とかカッコ良い例え話とかしてみたいんですけど、バカだから出てこないんですよ。

と言った。
俺は、自分をバカだと申告した彼の言葉が決して謙遜に聞こえなかったので、

それは大変ですね。

と言って素直に納得した。
結局、この間の指名嬢とはうまくいかなかったという彼に、寿司を御馳走になった御礼に、この言葉を贈りたいと思う。

人を笑わば穴ニつ。

穴とは女性器のことではなく、墓穴のことである。
人を笑うということは相手にも自分にも、大きなリスクがあるということだ。記憶にはないだろうが、身に染みてもらいたい。

ちなみに、俺が人生の落とし穴にハマり続けているのは、自分自身を笑い続けているのと無縁ではないだろう。

もう一つ最後の最後に言うと、ホントはそんな格言などないのである。(正解:人を呪わば穴二つ)

 

P.S. サスペンダーさん、御馳走様でした。
失礼な表現もあったかと思いますが、愛情の裏返しですのでお許し下さい。
また、よろしくお願いいたします。

 

 

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