誰がためにも鳴らぬ鐘(イチコロ編)


先日、前回コラムにしたうにお氏が、東京で出来たオキニに逢いに2度目の来京を果たした。
無駄足という言葉がこれほど似合う男も珍しいと、放っておこうと思ったが、あまりのその存在の痛々しさに自腹で3セット+アフターほど、彼に付き合ってしまった。しかし、アフターの最中に見つけた鼠の屍骸で突如としてドリブルを始めて、女の子をまじ泣きさせるほどクレイジーな男だったので、このことはコラムにはしない・・・いや、したくない。俺の文才を持ってしても、もはやフォロー仕切れないからだ。
しかし、コラムにはせずとも、使ってしまった生活費は返って来ない。

翌々日、俺は鬱々として「2週間ほどキャバは無しだな」と独りでオナニーをしようと(独り以外でオナニーはなかなか出来ない)ティッシュペーパーを3枚重ねて布団の上に広げた。
と、そのとき、唐突に俺の携帯が鳴った。

独、今から飲まないか?

相手は、先日ご馳走になった近所に住むサク氏である。
嬉しい誘いであるが、しかし、うにお氏との一件で金を使い果たしたため、とても付き合うだけの持ち合わせはない。
その旨を告げると、サク氏は、

お前に金がないことは分かっているよ。奢ってやるから、今から××駅に来いよ。

などと言った。

俺をみくびるなよ!

と言いたくなったが、言う程の財力もないので、俺は、

二度もご馳走になるなんて忍びないです。

と言いながら、実際は少しも忍ぶことなく即座に着替えて××駅に向かった。

逢うと、遅い時間だったが、お互いシラフだったので、まずは居酒屋で酒を飲む。
なんでまた唐突に誘ってくれたのかと聞くと、なんでも今日約束していた指名嬢が出勤をドタキャンしたのだと言う。逢えば必ずアフターしていたらしいが、「もう切る」などと言い出した。
「1回くらいの約束で、そんなこと言わないで下さいよ」と諭すが、「ダメだ。もう絶対切る」と言って聞かない。
大人げない。
妻と子供がいながらキャバクラに通うこと自体すでに大人げないが、それに輪を掛けて大人げない人である。

そんな大人げない人と1時間ほど大人げない会話をした後、

さてとキャバりますか

という展開になったので、俺の指名嬢がいる店を薦めた。
祭日の月曜だったということもあり、いつもは混雑しているその店も、割と空いていた。
しかも、その日は運良くショーが見られる日だった。
数人の美女たちが、乳房を出して下手っぴに舞う。しかし、誰もそのローファイなダンスに文句を言うものはいない。なぜなら客たちの視線はダンスそのものにあるのではなく、おっぱい一点(二点?)に集中しているからだ。
かの不滅の柔道家・木村政彦をして、その強さを表現するに、世間は「木村の前に木村なし、木村の後に木村なし」と述べたものだが、ここの人たちには、

おっぱいの前におっぱいなし。おっぱいの後におっぱいなし。

という心境なのだろう。
そして俺は、サクさんもさぞや、この光景に喜んでいることだろう、と思って脇を見た。

ところが、なんとサクさんの姿がない!
どこへ行った!?
焦って視界を見渡すと、なんと彼は自分の席を離れ、ステージにしがみついてがぶりつきで嬢たちの舞を見ているではないか!
場末のストリップへ行っても、ここまで欲望を剥き出しにしている人には、なかなか出逢えない。
ひょっとしたら、俺は、とてつもない偉人と飲んでいるのではないか、という気分に浸っていると、サク氏は、ショーが終わると同時に、踊り子嬢にリクエスト指名を入れた。
そして、脇に座った嬢に「綺麗なオパーイだ」「オパーイ、オパーイ」と連呼している。2チャン用語を口語でこれほど巧みに使用している人にも出会ったことはない。
失笑する嬢が「発音、いいですね」と誉めてるんだか馬鹿にしてるんだか分からないような言葉を述べたのは、他に返しようがなかっただけではないだろう。

予想外の感慨深い気持ちに浸りながら、そろそろ1セットの時間が過ぎたんじゃないかと思ってボーイを呼ぶ。
するとボーイは、次の自動延長に入ってます、などとウンコみたいな発言をした。さきに我々は入店した折、1セットでコールしてもらう旨を告げていたにもかかわらずである。
しかし、ここでは穏やかに我々は、「じゃあ、次でコールして」と言って見逃した。
ところが、なんと、このうんこボーイは20分後、次のコールもスルーして再度同じことを口にしたのだ。
さすがに、「おい、俺たちがさっき言ったこと覚えてるのか」と荒い口調で問い詰めた。
すると、そのボーイは、

さきほど、お客様は、自動延長でお願いします、とおっしゃいました。

などと訳の分からない言い訳をする。
さすがに腹が立った俺は、

あのなあ、どこの馬鹿が、自動延長を頼むためにボーイを呼び寄せるんだよ。

と、言いながら、

てめえ、冗談は俺の顔だけにしろよ!!

と怒鳴った。
かなりマジに怒鳴った。
ところが、とても整った顔立ちのボーイは、訳が分からないと言った顔でキョトンとしている。
隣の指名嬢も呆然と無言である。
二人の無言が、まるで俺のルックスのまずさを責め立てているようである。
俺は、無駄に焦った。

頼む!俺の顔は、冗談でもイかしていると言え!ドリンコ奢るから言え!!

しかしながら、そんな願いも空しく、何のフォローもないまま幾秒かの時が流れたため、俺は心に大きな傷を負いながら、「次のコールは忘れるなよ」と静かに告げた。

ただ、後から考えてみれば、今日のこの日はサク氏の奢りだったので、何も俺が怒ることはなかったのだ。
幾ら延長しようとサク氏が財布を痛めるだけである。
俺は、他人を想う行き過ぎた優しさのために、無駄に怒ったことを反省した。

次のコールではさすがに無事に出られたが、どうも、まだ帰りがたいテンションだった。
二人してプラプラ歩いていると、もう1軒行く代わりに、サク氏は自分のことをもう少し良く書いて欲しいというようなことを口にした。
今まで何も言わなかったが、やはり前回のコラムはあまり気に入らなかったようなのだ。
俺は、男と男の約束とばかりに、

分かりました。この上もなく誉めたたえておきます。

と告げた。

偉い!サクさん!ベッカム似!!

と、これで、約束は果たしたことにして、次の1軒はカジュアルスタイルの安キャバだった。
俺の隣にはフランスのクオーターの美女が付いたが、サク氏の横には、ロバみたいな女が付いた。
ロバと言うと、動物のロバアトランタ五輪の女子マラソンを制したロバか、どっちなんだと聞かれそうだが、そんなことはどっちでも良い。どっちでもいいほどロバに似ていたことだけは伝えておく。
帰り際、疲れた表情を浮かべたサク氏が、

やっぱオキニを切るの止めるわ。

と呟いた。

たっぷり散財した暁に得た結論としては微妙である。

 

 

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