明日に向かって撃てって(不発編)1
時は10月11日。
とうとう、東京どころかはるばる大阪から、わざわざ俺に逢いに来るという「愚か者」が現れた。もはや、ここまで来ると「愚か者」という言い草でも足りない。「大うつけ」とでも呼んでおこう。
そんな「大うつけ」の男の名は、うにお。別名、おにく日記。どっちも意味分からん。とりあえずここでは、うにお氏と呼んでおく。
掲示板やチャットで来京の予定を相談したために、待ち合わせ当日になって、「わざわざキャバクラのために東京まで来るバカの顔を俺も見てみたい」とあちこちから連絡が入る。
そこで、当日のメンバーは、大阪選抜のうにお氏の他にこうなった。
関東選抜 千葉県代表 次元大介氏(31才)
千葉県代表 ラーク氏(26才)
東京東部代表 オロオロ氏(4×才)
そして、キャバクラ独眼鉄(28才)
揃いも揃って、暇人としか言い様がない。
そして、待ち合わせ場所の某駅に待つこと10分。
現れたるは、時代遅れのエレクトリックギターのような男だった。
なんだ、ハゲてないじゃん。
どこからともなく「つまんねえの」という声が聞こえて来るのを俺は聞き逃さなかった。
実は、彼は過去に掲示板に、自分のことをこんな風に書いていたのだ。
「まだ初夏の透明な日差しが、三十路オーバーで後退しかけた額の生え際を緩やかに照らしていた頃の話で・・・」
それを読んだ我々が彼に期待したのは、ハゲて哀愁が漂った三十路のおっさん像だったことは言うまでもない。
ところが、彼は、どちらかと言うとハンサムの部類に属する男であった。
いきなり彼は我々の期待を裏切ったのだ。
東京選抜一同、彼の「自分が取るべき役割の認識に無さ」にテンションが下がったのを敏感な俺は感じ取った。
ハンサムは許すとしても、せめて、頭髪くらいはチョンマゲにするなりして来るべきであったのだ。
しかし、今さらそんなことを言っても仕方が無い。
彼が「腹が減った」などと駄々をこねるので、こちらは「腹が立った」ままのテンションで仕方なく行きつけの居酒屋に連れて行く。
我々一同、彼の大阪風味の微妙なハイテンションに困惑しながらも、お付き合いした後、キャバクラに向かうことになる。
まずは1軒目。過去に行ったことがあるAという店に向う。
そこで、彼が「今日は10万持って来た」と言っていたのを思い出し、入店するなり、景気づけに俺はこう叫んだ。
店のコ、全員場内だ!
自分の金だとドリンク代もけちるくせに、人の金になった途端見事な羽振りである。「漢(おとこ)」いう言葉が、これほど似合う自分が憎たらしい。
ただ、お店の人にたしなめられて、結局ついたのは8人までだった。後から考えたらこの店には、20人以上のキャストが出勤していたので、ある意味、不幸中の幸いだったとも言える(俺にとってじゃなくてうにお氏にとっての幸い)
そんなこんなで女のコが付くと、流暢な(当たり前)大阪弁で異常にテンションを上げる、うにお氏。
喜んでいます。
しかも、その勢いのまま、両肩で女の子たちを抱き寄せてます。声も無駄にでかいです。
端から見ると、恥ずかしい存在です。
しかも、せがまれて、いきなりフルーツ盛り合わせなどを注文しています。
端から見ると、とても恥ずかしい存在です。
「あーん」とかして食べさせられてます。
端からでも見てられないほど、恥ずかしい存在です。
しかし、そんな恥ずかしさに気付いた上で敢えてなのか、鈍感なのか、いつの間にか彼の周りには、女の子が集まっていた。
ボーイが来て「一人女の子をお借りします」と言って、男女比が5対7になったとき、ふと、俺はあることに気が付いた。
出世したてのチンピラヤクザのように、女の子を羽交い締めにしたりして楽しんでいるうにお氏に3人。
その人柄の良さで人生相談でもしているかのように穏やかに話し続けるオロオロ氏に2人。
からかい半分にトークを弾ませる次元氏に1人。
若さゆえというか、生来の性質なのかマイペースに口説き続けるラーク氏に1人。
そして、いつものようにクールにかつ、ダンディに相手を魅了し続ける俺に、女の子が・・・
んん?
3+2+1+1=7で、7−7=0
0?
ゼロじゃん!
そう。何故か、この逆アンバランスな男女比のなかでも俺は独りぼっちになっていたのだ。
縮図だ。
俺は今、社会の縮図の中で埋もれているのだ。。
いきなりキャバクラですら孤立してしまう現実に唖然としたが、一番奥の席で恥ずかし気もなく女の子のおっぱいの大きさを確かめているうにお氏を見て、
まあ、いいや。あんな恥ずかしい人になるよりは、このまま一人で思索に耽ろう。
と思って、目をつむった。以前禅寺に座禅を組みに行ったときのことを思い出して、気持ちを落ちつかせようとしたのだ。
ところが、そのときである。向いの席から訛りのある声が聞こえて来た。
鉄さん、何寂しそうにしてんすか!こっち来て楽しみましょうよ!!
目を開けた俺は、焦った。
そんなところには入りたくない。
俺は思わず聞こえないフリをして、うつむいた。
しかし、奥のほうから、なおも声が聞こえて来る。
なんか、鉄さんスネちゃってるから、みんなで呼び掛けてあげようよ〜!
俺は怯えた。
な、なぜ、そんな恥ずかしいことを口に出来る?
俺は、赤面しながら、祈った。
頼む。頼むから、ほっといてくれ。後生だ!
しかし、俺の願いは神様にも仏様にも聞き入れられず、彼に促された嬢たちが、
てーつくん。こっちに来て、一緒に楽しもぉ!
などと声を合わせる。
い、いやだ。
そんな、恥ずかしい人の仲間入りをするくらいなら独りで死んだ方がマシだ。。
俺は、そう思ってトイレに立つふりをして席を離れた。
このまま帰ろうかと思ったが、さすがに失礼なのでドキドキしながら席に戻る。
相変わらず盛り上がるテーブル。
とっくに俺の存在は忘れられていた。
その後、時間になるまで、俺に声を掛けてくれる嬢はいなかった。。
ああ、如常。
(以下、次回に続く)